AlphaFoldで遺伝子編集タンパク質を再設計、CRISPRの脱標的編集を低減
導入
遺伝子編集を使った治療は実用段階に近づいているが、安全性、とくに「脱標的編集」は大きな課題として残っている。ガイドRNAを慎重に設計しても、ヒトゲノムは非常に大きいため、よく似た配列が偶然存在することがある。Casタンパク質が少数のミスマッチを許容すれば、本来とは異なる場所で編集が起きる可能性がある。
Natureに掲載された最近の研究では、この問題に対してAlphaFoldを活用する方法が示された。研究チームは、正しい標的と脱標的候補に結合したときのCRISPR複合体の違いを比較し、ミスマッチを受け入れてしまうCasタンパク質の部位を再設計した。
主要ポイント
- 特異性はガイドRNAだけで決まらない。 ガイドRNAは標的配列を指定するが、Cas9などのCasタンパク質も結合の厳密さに関わる。RNAとDNAの塩基対にずれがあっても、Cas9が結合を維持する場合がある。
- 脱標的配列のデータセットを作成。 チームはアデニンをイノシンに変換する改変CRISPR系を使い、編集されたDNA断片を回収した。10種類のガイドRNAで同様の解析を行い、さまざまな脱標的配列を集めた。
- AlphaFoldで接触の変化を比較。 最初はより完全な複合体を入力したが、タンパク質の配置に問題が出たため、DNA、ガイドRNA、Cas9に絞って解析した。その結果、実験で得られた構造に近いモデルが得られた。
- ContactSeekで重要部位を抽出。 研究者は標的配列と脱標的配列に対する接触確率を比べ、ミスマッチ時に接触関係が変化するCas9のアミノ酸を特定した。多くの脱標的配列はCas9の構造をわずかに変え、さらに大半はRNAと接触するアミノ酸の組み合わせを変化させていた。
- 改変により脱標的活性を低減。 10の重要位置で23種類のアミノ酸置換を試した結果、標的配列での活性をほぼ保ちながら、脱標的活性を28%から5%へ下げるCas9変異体が見つかった。同様の考え方はCas12系でも確認された。
意義と影響
この研究の重要性は、脱標的問題を完全に解決したことではなく、より狙いを定めたタンパク質設計の道筋を示した点にある。従来はガイドRNAの選別、経験的な改変、定向進化などが用いられてきた。今回の手法は、既知の脱標的配列に対して「どのアミノ酸がミスマッチを許しているのか」を構造的に推定し、そこを直接変える。
これは、特定の治療開発で有望な標的がある一方、既知の脱標的リスクが障害になる場合に有用かもしれない。ただし、見つかった改変は特定のガイドRNAやミスマッチの組み合わせに依存する可能性があり、万能な高忠実度Casとは限らない。それでも、AIによる構造予測が分子の理解にとどまらず、安全性を高める設計サイクルに組み込まれ得ることを示す研究だ。
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